roca+α

rocaroca.exblog.jp
ブログトップ
2011年 07月 30日

パンとリンゴジャム

祖父は食べるのが好きで、いわゆるちょっとしたグルメだったらしい。
田舎から出てきて一人で鉄工所を起こし、一時は従業員もかなりいたみたいだ。
母の子供の頃の思い出の中には、お手伝いさんが出てくるし、
定食屋に連れていってもらった記憶はないが、
芸者さんのいる料亭には何度か連れられて行ったという。

私が物心ついた頃には「祖父の家=ご馳走」という図式が頭の中に出来上がっていた。
お寿司はいつも特上で車海老は美しい虹色の尻尾をしていた。
初めてフグを食べたのもウニを食べたのも祖父の家だ。
魚の味はここで覚えたのかもしれない。
洋食屋さんが持ってくるコールドビーフ!白くて滑らかなポタージュ。
あの当時はあんなに洒落た味、他で食べた覚えがない。

去年の誕生日にはデパートの三段重を
「美味しくない。今度はパーっと料亭に行こう」と言ってた祖父も、
今年の米寿の祝いには2、3口のケーキしか食べられなかった。
ヘルパーさんの料理は口に合わない。とちっとも口にしようとしない。

でもこないだ夕方遊びに行ったら、
今から夕食だと、スーパーの丸パンをトースターで焦げ目がつくまで焼いて、
アオハタのリンゴジャムをつけて食べていた。
静かな台所に祖父の入れ歯のコチコチ言う音が響き、
ジャムをたっぷり塗ったパンが、小さく小さくなった体の中に消えていく。

お前も何か食べろとしきりにバナナをすすめる。
牛乳を飲み干して、軍歌を大声で歌いながら、
緑も従業員と労働組合には気を付けろとギロリとした目を向けて言った。

e0056428_19495018.jpg

[PR]

by mido-remix | 2011-07-30 19:50 | いろいろ | Comments(3)
Commented by baku at 2011-08-02 09:36 x
おじいちゃん(わたしの母と同じ年)の 入れ歯のこちこち言う音がすぐそこに聞こえてきそう。
最後の一節には(苦笑)のち(笑!)。
ありがとう。
朝からいい短編小説読んだようなきぶん。
余韻にひたっております。

おじいちゃんの年頃の「おいしいもん好き」の方たちは、
「ほんまもん」をしっかり身体で知って(おぼえて)はりますからね。グルメきどりの若者とちごぅて、話聞いてるだけで、おもしろいし、思わずごくり〜です。
いま、食の世界がとんでもないことになりつつあるのを思うと、日々憂鬱ですが、だからといって捨て鉢なきもちになるのやのぅて「食べる」ことをだいじにしていきたいなあ、と改めて思います。(長々とすまんです)
Commented at 2011-08-03 21:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mido-remix at 2011-08-04 09:03
最近、お客さんと話するのも「食の安全」のことばかり。
スーパーなどで福島産野菜が安売りでも残っているのを見るたびに、買ってあげなきゃと思う自分と、子供たちやお客さんの顔を思い浮かべると結局手が出ない自分の間で揺れ動きます。
自分がすべきことは何なんだろうかといつもそれを見て考えるのです。
わたしの記憶の中にある「おいしいもん」たちが 、幻になってしまわないように。


<< お知らせ      お知らせ >>